■本場結城紬/ 重要無形文化財指定地機（いざり機）

藍色十字絣


本場結城紬の魅力に想いを馳せるとき、何にもまして想うのはその紬織物としての「やさしい表情」ではないでしょうか。　その表情はやさしさと共に素朴であり、表面的な派手さや艶やかさを敢えて控えているような印象が＜私がそのように感じるだけかもしれませんが＞感じられます。　器に例えるならば陶器でしょうか、土の生命や匂いをそのまま残し、そこに再現したかのような陶器。　磁器とは異なり陶器に研ぎ澄まされた＜洗練された＞印象を想うことはありません。　言わば生命（いのち）としての「土」そのものでしょうか。　


想えば磁機と陶器の関係は大島紬と結城紬にも似ています。　艶やかで色彩豊かな絵付けで表現される伊万里/有田焼に対して素朴で土の香り豊かな萩焼…　硬質で凛とした緊張感を保つ大島紬に対してどこまでも素朴でやわらかな空気感を想わせる結城紬…　東西の紬織物の頂とされる大島紬と結城紬ですが、その魅力や性質はまったく異なるものとなります。　


本場結城紬…　とりわけ地機（いざり機）　わざわざ申し上げるまでもなくそこには最上とされる手仕事が籠められています。　それがたとえ素無地の結城紬/地機であったとしても、です。　どのような細工を求めたとしても、惜しみなく手仕事の尽くされた本場結城紬ならば袖を通す方の期待を裏切ることは決してないのです。　それこそが実は本場結城紬の「本質」なのかもしれません。　極上の真綿糸を使い、最上の手間暇によって織り上げられたその絹織物は当然のように極上の着心地を保っているのです。　つまり、確実に間違いない満足感を与えてくれる織物なのです。　

こちらに掲載させて戴いた結城紬は勿忘草色の地色の中に藍色の十字絣が浮かぶかのように織り上げられた本場結城紬です。　私のような素人目にも精緻な織が掛けられていることが分ります。　文句なく魅力的なのですが、ではなぜこれほどに魅力的なのか。　本場結城紬の証紙が付いているから？　もちろんそうした先入観も否定はしません。　でも、これほどの質感を感じさせる紬織物を私は他に知りません。　単なる十字絣の織物であるだけならば、数多ある手織りの紬織物にいくらでも見られます。　しかしこの結城紬はそれだけに留まるものではないのです。　藍色で作られた絣が整然と並ぶのですが、整然と並び配されたその絣は手仕事の揺らぎを持って見る者を魅了してくるのです。　手間暇を惜しみなく尽くされた細工であるからこそ、何か他の織物からは感じることの出来ない固有の質感を保つのです。　そしてその質感は着物として袖を通された際に極上の着心地はもちろんの事、とりわけ際立った意匠美（文様美）に再び驚かされるのです。　

ご覧戴けますように、そもそも結城紬とは是々云々、と言う結城紬の意匠ではありません。　それゆえこの「着物」を本場結城紬と気付くひとはそれほど多くないかも知れません。　しかし、細やかな気を保つひとが目にすると、間違いなくこの「着物」が保つ上質感に気付き、本場結城なのだと判るのです。　

大袈裟に目を奪う美しさや艶やかさはありません。　しかし尽くされた「手間」が放つ上質はたとえ他者には見えなくとも装う方には必ず感じられる上質な美しさとなって表れるのだと思います。　ゆっくりと沁み込んでくるかのような上質、そんな上質も確実に存在するのです。　そして物の本質を見抜くことが出来る人には間違いなく判る美しさなのです。


※こちらのお品ですが、現在発売中の美しいキモノ２０１７秋号で１４０頁～１４３頁に渡り女優の柴咲コウさんにお召し頂いております。　つまり、、、撮影に使いましたので厳密な意味での新品とは言えません。　ご関心のございます方はお訊ねください。　お勉強させて頂きます。