【型染め小紋】
―伊予縞―

さてこちら、伊予縞と銘された型染めの小紋です。目を凝らし染色を見てみますとこの上なく繊細な染め重ねが施されていることがわかります。　染め重ねているとは？　型染めのなかでもこちら、江戸小紋同様伊勢型紙を遣い染められる訳ですが、こちらの型染めは一度染められたあとに、もう一度型紙をずらし、色を微妙に変え、染め重ねているのです。　ある部分は一本の線が影をともなうように目に映り、またある部分は一度目の染めのみで置かれています。　そしてそれは必ずしも 一定の間隔が置かれている訳ではありません。　不規則な「間」を保ち置かれているのですが、全体として眺めてみると不思議なことに規則的なある律動を感じさせるのです。


　“色の部分“を縞として見てみると 一本の線でつながっているのですが、染め重ねを意図的に且つ、不規則にずらしていることから刷毛暈しのような印象も保ちます。　職人の単なる自己満足ではありません。　その神経質とも思える細やかな図りがこの染色におぼろげに霞むかのような甘い印象を創り出しているのです。　想えば如何にも江戸小紋に丹精を籠めてきた職人らしい仕事です。　表面的な見せ所を意識的に崩す、目の向かない所にまで趣向を凝らす…　如何にも日本的なんだと思います。 　また、古来の染織において、この柄は縞の型を彫る「引き彫り職人」の 最高技術のひとつとされていたようです。


こうした小紋はもちろんですが礼装を意識して染められています。　単なる「小紋」として染められているわけではありません。　また、ほぼ “単彩”でありながらも　単調さや退屈を感じさせないのは、小紋染めの要となる文様の完成度、染色の仕事の質がそう想わせるのだと思います。　そしてそれ故に様々な帯合わせに対応出来るのだと思います。