【型染/九寸名古屋帯】
―茶屋辻文様―
小千谷紬地
着用時季・通年※盛夏期は不向きです。


さらりとした質感の紬地に茶屋辻文様が丁寧に型染めで描き染められています。　地色を生地色の白のまま残した染色は茶屋辻の文様の美しさを浮き立たせるかのようにやわらかです。　梅や菊、松の彩色もその控え目で光沢を抑えたその風情は「静」の美しさを感じさせます。　如何にも「和」を想わせる色彩/構図ではないでしょうか。　いわゆる引きの美学、抑制の美しさを感じます。　


ご覧頂けますように表面的な絢爛華美を求めて描かれたものではありません。　金銀箔や刺繍を施した豪奢なものではないのです。　でも、「画」の完成度の高さからでしょう、物足りない印象は露ほどもないのです。　美しさは絢爛華美なものだけに宿るものではありません。　奢侈な仕事が掛けられるほど却ってそれは遠ざかってしまうこともあります。　雅やかな美しさ、絢爛豪華な美しさが在るように、抑えた美しさ…　しっとりとした美しさ…　つまり抑制の美しさが存在する筈です。　こちらはそうした静かな美しさ、黙した美しさを感じ取ることの出来る方にお奨めしたい友禅なのです。

描かれているのは茶屋辻文様です。 意匠としてはただそれだけの「絵」でしかありません。　とりわけて珍しい構図ではないのです。 　もちろんですが「絵画」ではありません。 手描き友禅の絹布なのです。　腕利き職人によって染められた「帯地」なのですが、なにも考えずぼんやりと眺めていると帯地と言う事を忘れ「日本画」を見ているよう。　
やわらかではんなりとした空気感…　この友禅を染めた職人はこの「優美なる空気感」を意識していたのかもしれません。　それはまさにこの帯を染めた職人だけに在る美意識なんだと思います。　美しさと言う気配を知る者が保つ美意識…。

　撮影をしながら、そして解説を書きながら、そう…、時間にすれば僅かに数分のことでしょう…、魅入っている間は確実に染め帯であるとか、絵であるとかということではなく、唯々あるひとつの「画」として引き込まれていました。　
描かれているもののすべては止まっている筈の静止画です。　それなのに静止画である「画」から、風がそよぎ、梅が揺らぎ、菊の花の匂いまでもが伝わりくるかのようなのです。　たとえれば、描かれた草花の空気そのものから析出したような気配”が満ち々ているのです。　実に美しい染ものだと思います。

こちらの帯は江戸小紋や飛び柄の小紋、附下などにお使い頂けるのはもちろんなのですが、御召織物や、紬織物にもお使い頂けます。