【長井お召/長岡正幸】
―灰白・ピンストライプ―
制作/長岡正幸


無地感覚の御召織物です。　無地感覚…考えてみれば曖昧な言葉かもしれません。　
辞書によれば無地とは“全体が同じ色で模様のないこと”、と定義されています。　此処で申し上げる無地感覚とはむしろ無地とは正反対なものと言えるのかも知れません。　お伝えする無地感覚とは無地の様でいて無地とは対極に在るもの、（禅問答ではありません。）（笑）　無地の対義語が何であるのかはさておき、敢えて申し上げればこちら、小さな有機の群生でしょうか。　それは例えて言えばひとすじの糸の中にも、無数の色調が感じられるかのような…。


ほんの微かに灰色を帯びた白、白汚し。　今様の表現を借りれば、"超美しい"と思います。　言わば白色に灰色の薄紙をひとひら漉き込ませたかのような、滋味淡い色目なのです。　それ以外他に言葉を見付けられない程滋味淡い色目です。　もちろんいとも容易く出来る訳もなく、慎重に予想して「色」を創る訳ですが、予想したからと言ってなかなか発色する色ではありません。　まして淡い色に滋味を感じること程難しいものはないのです。

手に取って眺めていると無垢な美しさを想わせてくれます。　無垢とは？今一度、無垢を辞書で引いてみますと、煩悩のけがれを離れて、清浄であること。　けがれがなく純真なこと、また、そのさま。　まじりけのないことなどとあります。　こちらの御召織物…言葉にすれば「灰白無垢」でしょうか？　「白無垢」はまさに何色にも染まっていない純白。　けがれがなく純真なこと。　であれば灰白無垢とは白色ひと色にひとひらの灰色が染められたまじりけのないさま、無垢の灰白色と定義できるでしょう。


このような美しさを保つ御召織物、実はそれほど多く在るものではありません。　もちろんそれは私の見聞狭き故かもしれません。　とは言え少なくも四十年に及ぶ年月において様々織物に触れてきた者が思うのです。　かように淡く美しい灰白色を見た記憶などそれほど多くはないのです。　大袈裟に過ぎると思われるかも知れません。　単に無数に存在する絹布の一つに過ぎないのかもしれません。　美しいものとそうでないものは紙一重、とも云われます。　でもこの御召織物と志の漲らない織物との差をとても紙一重と思うことは出来ません。　そのままに紙に例えるのなら一重も二重も、いえ、それどころか八重も九重もの隔たりがあるのです。　もはやそれらとは比べる物のない美しさを想わせると言っても決して過言ではないのです。　

美しく染められた絹糸、唯一つの灰白色、あえて色名を和色大辞典で例えるなら「白練り」でしょうか。　そしてその色の調和は「きわめて美しい御召」以外には他に表現する言葉が見付からない程…。　何もかもが調和することによって醸しだされるその美しさ…。　付け足すように申し上げるならば、美しさを宿したこの御召織物は着物として装われる際、単なる御召織物ではなく、まるで雪解け水のような美しさを想わせてくれると思います。　
半巾帯でよりカジュアルな装いも、染めの名古屋帯で余所行き感を想わせても。