水流の「季・とき」折々・・・
「季・とき」折々… 2016年 2月7日(日)
雪解水
翡翠の湖と
なりにけり
長崎桂子
あを
■藝術の値段
ときどきふと<草の匂ひや空の匂いを感じたりした時>思い出すのは少年の頃の記憶。 そ、遠~い遠~い昔のお話。 小学生の頃、親戚の家に<盆や正月に>遊びに行くとたいてい一晩や二晩は泊まったものなんだけど、泊まるのがもう嬉しくて嬉しくて何日も前から指折り数えて待ってた。 でもね、二階の祖父さんの部屋がなんだかいつもしゃぐらくて恐かった。 湿った草のような匂いのする畳の上に寝転がると、天井の木目が皆いっせいに私のことを見てくるんだ。 誰だこの小僧は、って感じでじろり…。 気が付くとあっちにもこっちにも目がいっぱいで…。
お化けにも動物にも見えてくる天井にただ一つとして同じ模様はなかった。 夏休みなんて時間はもうたっぷりあるもんだから、こわいお化けたちに目が慣れてくると節(目)の数を数えたり(笑)、あ~あそこにいるのは鹿みたいだな、うぅ~っ!、隅っこにキリンがいる、と木目模様に行ったこともない動物園を想ってみたり、ゆったりと、気が済むまで心の中に溶け込ませた。 思えば、、、うん、まぁ、あくまでもセンチメントも入っているから単純に比較は出来ないけれど、あの頃がこれまでの人生の中で一番自由自在だったのかなぁ…何もかもが。 現代の家は壁も天井もクロスが貼られる。 真っ白で味も素っ気もない天井をどれだけ長い時間眺めていたって面白い奇跡なんて何ひとつ起こらない。 レゴブロックの様な現代の建築は畳に(あ、畳もないか。)大の字に寝そべって天井の模様で遊ぶ幸福の時を子どもたちから取り上げてしまった。 でも、、、スマホのゲームにばかり夢中で下ばかり向いている現代の子供たちはそもそも上を見上げる楽しみすら初めから知らないか。(苦笑)
閑話休題。
先日、と或るSNSに投稿された記事。 折々に目にするのでご存じかもしれませんが、そうだな、芸術って…、つまり、美術や工藝ってこおゆうこと、なんです。 ストンと腑に落ちる筈。
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ある日、ピカソがマーケットを歩いていると、手に一枚の紙を持った見知らぬ女性がこう話しかけてきたそうです。
・「ピカソさん、私あなたの大ファンなんです。この紙に一つ絵を描いてくれませんか?」
ピカソは彼女に微笑み、たった30秒ほどで小さいながらも美しい絵を描きました。 そして、彼女へと手渡しこう続けます。
・「この絵の価格は、100万ドルです」
女性は驚きました。
・「ピカソさん、だってこの絵を描くのにたったの『30秒』しかかかっていないのですよ?」
ピカソは笑います。
・「30年と30秒ですよ」
と、ここまで。
そう、「30秒だけを切り取って考えることなんて出来ない」のだ。
芸術家ピカソの話としてだけに留まらず、“芸術の価値”に対する人々の意識をあらわす話としてよく知られる逸話です。 ピカソだけのお話ではなく、芸術家の才能を時間で計ることは出来ません。 それが包装紙の裏に描かれたものであったとしてもどんなに短時間で、走り書きの様に描いた<ような>ものであったとしても、芸術家が長い年月を掛けて積み重ねた思考の堆積が作品に宿るのです。 芸術や美術の価値はそこを理解しないとまったくもってわからないものなのです。 美術、工藝というものが<一般的に>確立していない日本では、美術や工藝、文学というものの背景や歴史を推し量ることが出来ないことが多い。 上の逸話のように号外の新聞を受け取るがごとくの様なひとも時に見掛ける。 ときに企業ですらそうだ。 「芸術は難しいしね…」なんてはじめの一歩から敬遠したりする。 この上なく愚かなことである、ことも知らない。
いつも思うけれど、ピカソに限らず、たとえば芹沢介だって、私たちはもはやその人を目の前にすることは出来ない。 でも、いま私たちが残された作品からピカソのリアルタイムの息遣いを感じ取れるように、現代の画家や工藝染織家が時間の流れに沈殿したピカソたちの意識のゆらぎを掬いとることは出来る。 ピカソが生きた時代から、長い時が過ぎた。
1973年、91歳で幕を下ろしたパブロピカソの生涯。 2016年の今年60歳を迎える(自分の事を迎えると書くのか?)私の人生を比べるべくもないけれど、着物と関わって30有余年、呉服商を始めて33年目になるが未だ素人も同然…、工藝染織とはなんたる奥の深い世界か…。
写真は出雲織の青戸柚美江さんの作品「夜空」 素晴らしいの一言。。。
ピカソ展やっているなぁ… あぁ。。。
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