塩蔵に
叺積みあり
つづれさせ
斉藤小夜
風土
【本場黄八丈】
―市松綾黒紅― めゆ工房/山下芙美子 草木染手織り
市松綾
山下芙美子氏制作の黄八丈織/市松綾。
八丈島に自生するまだみ、刈安、椎を採取し、それらの植物から抽出した染料で鳶色、黄色、黒に染められ、手織にて織り上げられる 紬織物です。 八丈島の植物だけで、古来より受け継がれてきた制作技法で織り上げます。 東京から遥か南、厳しい自然に囲まれた絶海の孤島、その島に自生する植物だけでつくられる黄八丈。 黄色は八丈刈安(コブナ草)、樺色はマダミ(タブの木)、黒色は椎の木の皮と泥染めによってつくられます。 黄色、樺色、黒色、それぞれの工程を経て染められた糸は洗い、乾燥の後、短いもので二年、長いものになると五年、六年の歳月を掛け寝かします。 色の斑が収まり、色の落ち着きや定着をを待つのです。 その後、糊つけ、整経を経て黄八丈はようやく織り始められるのです。 すべての黄八丈は人の手によって織られています。 緯糸を飛び杼と呼ばれる道具で経糸の間を左右に移動させながら、リズミカルに筬で糸が打ち込まれてゆきます。
ほんの少し技術と技法をかいつまみますと、、。
一、先染めの平織り又は綾織りとする。
二、緯糸の打ち込みには手投げ杼(てなげひ)を用いる。
三、染色は手作業による浸染とする。この場合において、染料は、コブナグサ、タブノキ又はシイを原料とする植物性染料とし、媒染剤は黄色や茶色(樺色)はツバキやサカキの木を焼いた灰で作った液で媒染、黒色は鉄分を含んだ沼の泥による媒染。
・・・ ・・・
と言うような事をつらつらといくら書き連ねたところで黄八丈の何かが分かる訳ではありません。 かく申し上げる私でさえ、実際に織ったこともなければ糸を染めたことすらないのですからわかりません。
山下芙美子氏が手掛ける黄八丈市松綾織です。 山下め由・山下八百子・山下芙美子と続く山下家の黄八丈です。 新小石丸糸を使い、八丈島に自生する、コブナグサ、タブノキ又はシイを原料とする植物性染料で染色し、木炭又は泥土で媒染する。 つまり、八丈島に継承されてきた制法に則り、作り続けられてきた織物です。 山下家の黄八丈は染色にこだわり、媒染にこだわり、すべてを伝承制法にこだわり織り上げられた織物です。 ご覧いただけますように、いわゆる「普段着」的な印象は希薄です。 都会的でスタイリッシュな感覚を感じられると思います。 山下芙美子氏が創る黄八丈はその他の黄八丈とはまったく異なるベクトルの美しさを想わせてくれます。
抑制均衡の図られた精緻な織りが画像でもお分かりいただけるかと思います。 お色目は黒みを帯びた紅、日本の伝統色にも近似色はありません。 黄茶系が大半を占める黄八丈でほとんど見掛けたことのないお色目がカジュアルなだけではない品を想わせてくれます。 可笑しな表現と思われるかもしれませんが、着物として織られた織物でありながら、着物以上の何かに見えてしまうのです。 もちろん制作者である山下芙美子氏は着物として使われることを想って制作されています。
山下芙美子氏が理想とする織物を追い求め、黄八丈の理想の形として織り上げたものなのではないかと想像します。 山下芙美子氏のなかで芽生え、育まれ、伝承の中で研ぎ澄まされた美意識が直接的には目に見えない何かとなって布の上に現出しているように思えるのです。(※八丈島から届き、荷を解いた織物商のスタッフ達も広げられたこちらの黄八丈を目にし、思わずオオッ、と歓声が上がった、と聞きましたが、頷きました。) それは制作者の想いが作品に宿り、「凝縮された美意識」が見る者の目に映るからなのかもしれません。
こちらにご紹介させて頂きました「黄八丈/市松綾」、手にとっていただくと極めてしなやかな質感を保っていることがわかります。 それは落ち着きのない軽さ、頼りないしなやかさでは決してなく、身につけるものの質感としては極上のしなやかさを有した軽さであると言えます。 加えて申し上げるならば、特有の美しいお色み、美しい市松綾織が更に染織の表情に厚み/深みを持たせています。
山下芙美子氏が手掛ける黄八丈、美意識の結実した秀逸な織物だと思います。 おそらくこうした工藝に関心をお持ちで、且つ、黄八丈についてこのどうでもよい長文を読んでくださる方はおそらく私なんかより黄八丈のことを詳しく知っておられるのかも知れません。 兎にも角にも見事な織物ですし、なによりもこのお色目が素敵だと思います。 最後にこちらの黄八丈の魅力を一つ書き加えますと…、こうしたお色目は洛風林の洒脱な帯や、京都小阪の優美な友禅、大人可愛い型絵染の帯をとても魅力的に引き立ててくれる、そんな愉しみもあります。 参考までに京都小阪の手描き友禅御所時、洛風林の貝花文を適わせてみました。
※黄八丈は1984年に東京都の無形文化財の指定を受けました。 黄八丈に使われる糸はかくも美しくも抑制の効いた光沢を持ち、陽光の中で特有の光を放ちます。 気の遠くなるような手間暇と歳月をかけて染め上げられた糸は年季の入った高機で人の手により黄八丈と姿を変えてゆきます。 必要以上に無理な力を加えずに糸の長所を最大限に引き出すようにそれは織られるのです。 「黄八丈」は織物の宝石と言っても大袈裟ではないのかも知れません。 黄八丈は1984年に(故)山下めゆ氏、1986年に(故)山下八百子氏が東京都指定無形文化財技術保持者に認定され、現在も山下 誉・芙美子氏を中心に、精力的に黄八丈の制作、発展に尽力しておられます。
商品番号 |
ETJ-HRT-0333 |
商品名 |
本場黄八丈 |
品質 |
絹100% |
価格 |
¥895,000(表地のみ仕立て無し/税込) ¥937,000(単衣着物仕立上げ・居敷当付/税込) ¥949,000(袷仕立上げ/税込)※一級和裁士による手縫い。 ※お仕立てに要する日数はご注文確定後 約3週間~30日戴いております。 ※お急ぎの際はお訊ねください。 |
巾/ 長さ |
丈/3丈3尺程(およそ12.5m)
巾/1尺2分(およそ38.65cm) |
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