【士乎路紬/しおじつむぎ】
草木染手織り真綿紬織物
格子
制作/加納


士乎路紬(しおじつむぎ)　ルビがなければおそらく読めなかったであろう士乎路紬も昨今着物愛好家の間ではすでに一定以上の評価を得、郡上紬などと同様に産地の紬織物としてはよく知られた草木染紬織物として定着したようです。　士乎路紬は経緯ともに手引きの真綿糸が使われた手織の真綿紬織物です。　手引きの真綿糸が経緯ともに使われているのは究極の真綿紬織物と称される本場結城紬のようなしなやかさを求めてのこと、もっと言えば纏われた際に布としての重さを感じないと言われることが特徴の一つと言えます。

士乎路紬は草木から抽出された染料で染められた真綿糸が使われています。　使われた染料は車輪梅、琉球沖縄の織物によく使われる植物です。　褐色/墨色が作られる車輪梅、その色相を様々に発色させることでこの格子が創られているのです。ですので見る角度によって赤みを帯びたグレーに見えたり、また別の角度では緑みを帯びたグレーに見えたりと豊か色表情をみせてくれます。　指先に馴染む真綿糸を使い、ほっこりと織り上げられた手織真綿紬織物です。　模様とされた意匠は市松格子と線格子が重ねられたもの、とりわけて個性的なものではないのです。　でも、こうした一見何でもない紬織物は、ひとたび着物として仕立上げられると想像する以上に素敵な着物となることが多いのです。

トルソーに着付けてじっくりと眺めているとなんとも風情ある優眉な印象で私の眼に魅力的に映り込んでくるのです。　何故、このなんでもない紬織物が魅力的であるのか…　私にはその理由をはっきりと指し示すことは出来ません。　でも、こうして丁寧に織り上げられて一つの織物となった紬の表情は、どこか瑞々しい自然の生命を宿しているかのようでもあり、大地の生命を想わせてくれるようで、もともとはそれが繭であった気配にも満ち充ちていて、それが得も言われぬ魅力となって迫ってくるからなのかもしれません。　ある一つの織物として新たな自然の生命が宿されたという事は、唯それだけで他の何か無機質なものとは確実に異なる魅力を保ち、ひとが手を加えたのだけれど、ひとの力など遠く及ばない自然の理を想わせてくれます。　ひとの手で紡がれた糸はもうそれだけでほのかな温かさを想わせ、やわらかな着心地まで想わせてくれます。

これ以上ないほどの手間暇を掛けて原価を掛けて織り上げられたそうしたものが、ある意味素晴らしいものであることはあらためて言うまでもないことです。　だからと言ってそれ以外のものに価値がないのかと言えばそういうことには決してならないのです。　贅を凝らす、つまり無駄な原価、時にそれは掛ければ掛けるほど品を落とし慎みのないものに下がってしまうことさえあるのです。　こちらの織物の魅力は一言で言い表すことの難しい絶妙なお色目と素朴な格子もさることながら、いつまでも触れていたくなるこの真綿紬の質感にあるのではないかと思います。　単衣にも、もちろん袷にも…　お好みでどうぞ。。。お試し頂ければ確実に私のお話に頷いて頂けるかと思います。
※参考に、洛風林の百合紋、宮城里子氏の本紅型と適わせてみました。