写実美の
憂し美術展
十二月
早崎泰江
あを
【本場結城紬/地機】 (居座機・いざり機)
総経緯絣 ガス燈
極上の着心地と賞される「いざり機」によって織り上げられた「本場結城紬/地機・百細工/総詰め絣」。 なぜ、本場結城紬の、とりわけ地機による結城紬が、極上の着心地を想わせてくれるのか。 そもそも地機結城紬が地機結城紬たる所以とは。 本場結城紬の魅力について想うとき、何よりもまず、織物として他に類を見る事のない質感を挙げることが出来る。 すべての工程が重要無形文化財技術指定の地機としての基準を満たすべく、手間暇の掛けられた”本場結城紬/地機” それは求める人の期待を決して裏切ることはない。 いざり機により織られる結城紬/地機が、極上の着心地、羽衣とも賞されること、それは些かも過ぎた評価ではない。
地機の結城紬はひとの手によって真綿から引き出される極上且つ極細の手引き真綿糸が使われる。 一般的なお話として申し上げると、糸というものは撚糸(※撚り/より)を掛けることにより強度を保ち、且つ織物の糸となりえるもの。 けれども本場結城紬の糸はその他の産地の織物にはほとんど例を見ない、もっと言えば世界の織物に於いても例を見ない「無撚糸」の糸が使われる。
しかし、無撚糸の真綿糸はそのままでは「機にかけて織る」ことは出来ない。 経糸も緯糸も真綿糸であるため、互いがすべらず、経糸と緯糸を交差させにくい。 要するに「綜絖が開き難い、杼を通し難い」 そのため真綿糸に糊を付けて滑り易く?することでやっと機にかけられ「織る」と言う作業が可能となる。 織り上げられて製品となった本場結城紬は、お求めになられた後、産地において入念な湯通しが施され、糸に付いていた糊が落とされたときに真綿糸は初めて呼吸をするかのごとく、空気を含む。 この空気を含み素朴な質感を甦らせた真綿糸は、他のどの織物よりも軽く、また強さをも保ち、そしてそれこそが、「羽衣」とも称される極上の着心地を与えてくれるのです。
まるで蚕の恵である繭が「ひと」の「手」によって真綿糸につくられ、またその「ひと」の「手」によって紬織物と言う形でやわらかな繭に戻るかのよう。 それゆえなのか、その表情は自然の趣に溢れ、また素朴でありながらも単なる紬織物とは異なる印象を見せてくれる。 実はそれそこが本場結城紬の固有の個性であり、まさに本場結城紬と言える所以なのだ。 私の狭い見識において繭から引き出された糸が織り上げられてまた繭に戻るような印象を保った紬織物を他に知りません。
さてこちら…、すぐにアッ、とお分かりいただいた方もいらっしゃるかもしれない。 本場結城紬に使われる真綿糸の原産が福島の保原なのは結城紬愛好家には知られたお話です。 結城紬の故郷を訪ねる旅で保原まで脚を延ばされる方も方も多いと聞きますので目にされたことがある方も。 福島の街、灯りをともすガス燈がデザインされた地機の結城紬です。 生成り地に並べられたガス燈は街の温度そのもの。 これまで多くの結城紬を見てきてますが、こうした意匠/designを見た記憶はほとんどない。 友禅などでは時折見掛けますが、結城紬ではとても珍しいデザイン/design。 可愛い印象になりがちな意匠ですが、生成りのような、あるいは白のような地色が全体の印象ををやわらかなものにし、特徴的な意匠の可愛さを浮かび上がらせている。
正確に絣の個所を測りながら摺り込み絣を入れるだけでも相当な日数を要したのは容易に想像出来るのですが、それを機に掛けこの精緻な紋様を織り上げてゆくのは気の遠くなるような仕事であったろう、と思わずアタマが下がります。 この結城紬の最高にして最大の魅力は極めて精緻でありながら、人の手の揺らぎや温もりを感じさせるこの意匠であることに異論はない。 ご覧頂けるように”そもそも結城紬とは”という意匠ではない。 また、そうした結城紬をこれまで私自身も多く目にしてきました。 でも、そもそも結城紬とは、という意匠ではないこの結城紬もまた、本場結城紬以外の何物でもない、新しい魅力を湛えているのです。
商品番号 |
INS-HUT-63 |
商品名 |
本場結城紬/地機・総経緯絣 |
品質 |
絹100% |
価格 |
¥1,750,000(表地のみ仕立て無し/税込) ¥1,792,000(単衣仕立/居敷当付き/税込) ¥1,804,000(袷仕立上げ/胴裏・八掛/税込) ※一級和裁士による手縫い。 ※お仕立てに要する日数はご注文確定後 約3週間~25日戴いております。 【※単衣仕立てをご希望の際はお尋ねください。】 |
巾/ 長さ |
1尺※約38cm程/ 12,5m程 |
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