【手描き九寸名古屋帯】
ー風韻に咲く―
手描
制作/国画会会友 山本由季
紬地


創作友禅染織作家/山本由季。　きものや帯を愛好される方にとってきっと一度ならず聞いたことのある、記憶のあるお名前だと思います。　わざわざ申し上げるまでもなく「創作友禅」の染色作家です。　山本由季さんが描き染める着物や帯は古来伝わる京友禅とは趣を違え、いつもどこか儚げで優しげで、そして儚げな印象をともない私の目に映ります。　山本由季さんのガラス細工のような内面そのものを映し染めたかのような友禅。　伝統的な古の技法そのままに描き染める京都の古典友禅も様々なインスピレーションの引出しから彩り技法を取り出し、自由自在に絹布に生命を吹き込む山本由季さんの創作友禅。　まったく趣の異なるもののようにも見えながら、その根底を流れる染織美は同じものが流れています。


山本由季さんの手によって描き染められた紬地の九寸名古屋帯です。　山本由季さんの特徴的な柄の一つである薔薇が描かれています。　山本由季さんの作品＜のほとんどすべて＞はまさに創作、見た瞬間にグッと引き寄せられる、極めて単純に言ってしまうと「欲しい！」思わされてしまう。　本作品は染織家である山本由季さんの美意識だけが浮かび上がるもの。　そこはかとなく可愛さを想わせながら、それでいて稚拙では決してない。　特筆すべき「彩色の美しさ」がそこにある。　


制作者である山本由季さんが工房を構える宮城県の奥深いそこは東北の原風景といったところです。　実は写真でしか知らないのだけれどおおよその想像はつくのです。　自然の木々や草花の中に由季さんが手入れをする植物たちが混在する、その中の一つに今回のモチーフとなった薔薇がある。　一括りに雑草と呼ばれる草にもそれぞれに名前があり、その雑草の中でひときわ美しく咲き誇る薔薇。　そもそも薔薇はなぜこんなに可憐な姿形をしているのか。　なぜ、こんなに見るものの気持ちを惹きつけるのか。　フラワーショップで売られている薔薇も美しいには違いないのだけれど自然の中に息づく薔薇の美しさは他に例えようがない。

まるで絵画のように描かれています。　美しい。　描かれているものは薔薇…、ただそれだけ。　でも、ただ、それだけの画が極めて美しい。　手描きで描かれたそれはまさに世界に一枚の画、一枚の薔薇の画です。　淡い碧緑に染められた背景に浮かび上がる薔薇が印象的な作品です。　東北の、宮城の山々に生い茂る木々の中の薔薇。　着物でも帯でも、染織に関連して思うのは「クリエイティブ（独創的）な人が好き。」。　迷いやおそれ、停滞やひらめきといった試行錯誤の痕跡の無いもの（ひとも）は好きではない。　加えてどこか突き抜けた”何か”を感じない作品には興味はない、この制作者は何を観ているのか、その目が捉えたものは何なのか、というものが好きだし、そうした作品を紹介したいと思う。

さんざんこれまでに見てきたような薔薇ではなく、山本由季さんの目が捉え、脳が咀嚼し、絵筆を持った手に伝わった作品です。　真綿紬織物、結城紬や郡上紬などに適うことは言うまでもないのですが、大島や黄八丈、その他の紬、また、久留米絣やその他の木綿のお着物に適わせてもとても素敵だと思います。
※本作品はお太鼓の裏に次々に咲くかのように薔薇の蕾が描かれています。