【型絵染九寸名古屋帯】
―明るい外へ―
紬地
制作/関美穂子


型絵染の染色家の中にはデッサンや下絵を自分で描いて、型紙の型彫りや、染色まで（またその一部）を他の職方や工房の弟子に依頼する染色作家も居ますが、デッサンから下絵、型彫りから染色（彩色）に至るまでその全工程を何から何まで一人でされる方も居ます。　こちらに紹介させて頂きました関美穂子さんはまさにその後者。　つまり、それはとりもなおさず作品の端から端まで関美穂子さんの今、関美穂子さんの今その瞬間のエッセンスが籠められていることになります。　

作品には生成りの地に幼稚や稚拙とは真逆な鳥や草花、猫たちが描かれています。　　大袈裟と言われるのを承知で申し上げますけれど、「型絵染」ももうここまでくると芸術作品と呼んでも決して言い過ぎではないと思います。　そう、まさにアートなのです。　異論を差し挟む余地のない完璧な意匠、色数を使いながら決して煩くならない彩色、描かれた対象物の一つひとつの大きさ、そのすべてが完璧でもあり、視点を変えて見てみると、ぎりぎりのバランスを保っているとも言える。　もちろんそのすべては制作者である関美穂子さんの意図によるものであり、そのすべてが計算されたバランスとアンバランスの間に成り立っているのです。

美意識の概念に関して言えばそれはひとによっていろいろな捉え方があるのだと思います。　そもそも美しさに対する概念などを論じることは私にはとり立てて意味のあることのように思えませんが、敢えて言えばある画家は赤や黄色の華やかさを美しいと感じ、たとえば数学者は難解な数式の羅列を見て美しいと感じるのだと言います。　音楽家はメロディそのものよりも音符の並んだ楽譜そのものを美しいと感じ、陶芸家はこねた土そのものに立ち上がる美しさを見出すと言います。　華道家は華やかに咲き誇る花々を美しいと愛で、書家は墨の墨色に心を映すのです。　感じるものはひとにより様々ではあるけれど「美しさ」に共通することはそれを眺めているとなぜか幸せな気持ちになれることだと思います。　観るひとを幸せな気持ちにさせる。　眺めているだけで幸せな気持ちになる。　美しいとはそういう事なのかも知れません。　浅薄な考えや愚かな計算の一切入り込むことのない、率直な追求が美しさを具象化する、それも私の個人的な美への概念でしかないのですが…。

関美穂子さんは直接目に見えてはいない美しさを創造することが出来る人ではないか、と思います。　音楽家が音楽を創ったり、演奏家がそのメロディーを奏でたりすることと同じように美しさを染め描き上げること、その行為を楽しんでいることが作品を通して伝わって来ます。　制作者が美しさを感じているのです。　だからこそ美しいのかも知れません。　その意味において染織作品も染織家の一つの優れた楽譜でありメロディーなんですね。　染織家が高名か否かは作品の美しさを評価するにおいて些かの関係もありません。　染織において最も大切なことはその作品が「美しさの旋律」を奏でているかということ。　適わせるお着物ですが、紬に適うのは言うまでもないのですが、他にお召や塩澤、色無地や江戸小紋（※極鮫や万筋、角通しや行儀など）に適わせて頂きましても素敵ではないでしょうか。