うたたねをして
百合の香に
包まるる
山田暢子
風土
【手描き友禅九寸名古屋帯】 制作/湯本エリ子
―百合紋― 手描き 着用時季・盛夏を除く通年
「やはり私は染色という仕事が好き。」手描き友禅作家/湯本エリ子さんの言葉には染色に対する思いのすべてが込められています。 「なにも無い/無」から、「なにか」を創る、もちろんですが、次から次からアイデアが浮かぶ訳ではないと言う。 長い時間の中で浮かんでは消える色や形…、破裂してしまいそうな時間を経て図案/意匠が出来上がるとも。 以前にも書きましたが、気持ちを込めて創られたモノには魂が宿る。 そしてまるでなにかが惹き合うかのように求めていた人の処におさまる。 湯本さんも次のように書いている。 「弾むような心持ちで創作した着物や帯はいつか必ず私の元を離れ、強い想いで求められた誰かの元に渡る」 染色の世界は創り手と愛好家が作品が語り通じ合う…、さらに言えば、作品そのものにまるで気持ちが在るように、好きな人の元、愛好してくれる人の元へおさまる。 染織作家にも作品にも幸せなことはお求めいただいた方に纏われること、作品に語りかけてくれること。 そうした意味においていつも私は可愛がっていただけるお客様の元へ、と思いながらこうした紹介文を書いています。
こちらの作品は、図案の完璧な美しさに惹かれ、弊店が地色を深いグリーンで、とオーダーした作品「百合紋」。 生地も指定しました。 百合の美しさを図案化した作品ですが、日本的な「和色」の美しさに加え、創られた「カタチ」の美しさ。 百合を意匠化し、さらに昇華させ、完璧な紋様としています。 きっと湯本さんの中でそれとは気づかぬ内に降り積もったアイデアが記憶の奥底に眠っていて、それが熟してこうして作品となっているのだと思います。 アイデアはまるで紙風船のように、「ふぅっ、」と創造の息を吹きかけると膨らんで制作者の前に飛んできてくれるのか。 いつどこで紙風船が膨らむのかは制作者にだってわからない、そうして創られた作品は機械的なプリント染めと比して遥かに人間みが感じられるのです。
湯本エリ子さんらしい意匠化されたユリが描かれています。 重厚な「和文化」を想わせる彩色/文様ではありません。 京友禅然とした印象は感じません。 京友禅であるとか江戸友禅であるとか、そうした括りを超えた、何ものでもない友禅作品、むしろ私の目には手描き友禅の美しさの全てが凝縮しているかのように見えます。 眺めていて感じるものは確実に湯本エリ子さんの友禅の美しさです。 とりわけ美しく思わせるのはこの作品における余白(余深緑?)の美しさ、見事さ、そこに尽きると言えば言い過ぎかもしれませんが、美しさを思わせる一つであることに疑いの余地はありません。
湯本エリ子さんが内包する美意識、加えて非の打ちどころなく完成された美しさが、いかにも日本的な美しさを醸し出しています。 そしてその丁寧が尽くされた手描き友禅が帯地としての価値観、一枚の画としての価値観を高めています。 百合というさほど珍しい訳でもない意匠文様でありながら、これまでに見た記憶のある百合の意匠ではない。 でも、どれだけ眺めていてもそれはまるで水墨画の様に私たち日本人に訴えかける意匠/designとして、些かも物足りなさを感じさせない極めて高い友禅としての「上質」を保っているのです。
湯本エリ子さんの感性で表現された百合… モチーフとしては決して珍しいものではない百合ではあるのですが、色彩の印象を巧みに操作することによってこれまに見た記憶のない百合の画を作り出しています。 百合の姿形を写実的に描き写すことは友禅作家であれば特段難しいことではありません。 或いはよく見掛けるようにPCでデザインを取り込みシルクスクリーンで染めるのならば、その方がいわゆるところの綺麗な(笑)染物となるのだと思います。 しかし、ひとつの染織工芸として美しさの表現が主であるならば…。
湯本さんは最後にこう結びます。「絵の中に空気を描きたい」と。 いつもそう思って創造しています、と。 私はいつも思う。 なにやら禅問答の様ですが、「美くしさの欠片も籠められていないモノを知ることで美しいということがこの目で解り、美しさをもっと知るためにそうでないものも見る」 着物や帯、染織作品はどこまでいっても趣味趣向の延長線上にあると私は思っています。 日常に着物を着ていた時代もそうではない今も。 ですから、効率とは無縁の着物や帯を愉しむこともまた一興かも知れません。
※画像では江戸小紋に合わせております。もちろんですが、色無地、小紋、軽い附下などのやわらかもの、紬の着物にもお使いいただけます。
商品番号 |
SJE-KRK-0360 |
商品名 |
手描き友禅/九寸名古屋帯 湯本エリ子作 百合紋 |
品質 |
絹100% |
価格 |
¥280,000 (帯地のみ仕立て無し/税込) ¥291,500(芯仕立て上げ税込) ※一級和裁士による手縫い。 ※お仕立てに要する日数はご注文確定後 約2週間~20日戴いております。 |
巾/ 長さ |
※お仕立て上がりの際のサイズは帯巾・八寸~八寸二分程。/ 長さは九尺七寸~八寸程。多少の変更は出来ますのでお訊ねくださいませ。 |
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