【手描き絞り/九寸名古屋帯】
―空移　辻行水―
制作/山本由季


なんと表現したら作品に適うのか、、。　絞り染めと手描きで描き染められた美しい絹布…、という以前に意匠に惹きこまれてしまう。　ただ絞りと型と手描き（手彩色）の帯と言ってしまえばそうに違いないが、、、実に魅力的です。　絞り、型、彩色、のすべてが極めて秀逸なのです。　ひと目で山本由季さんの作品だとわかる。　染色家はひとりひとりそれぞれに好む色彩/個性、もっと言えば癖を持っているけれど本品は隅々まで山本由季さんの個性が染め渡り実に美しい。　折り紙を切ったような小さな□もランダムに置かれているが、それなのに全体で見るとひとつの統一がある。　つまりトーンがあるのです。　トーンとはまさに、音の色であり、厚みであり、色の調べであり、抑揚や静けさ、である。　目にするとまるでひとつひとつの四角□が、ひとつひとつの色が、ここ以外にないというべき場所にぴしりとおさまっている。　地色の美しさも特筆もの、見ていると吸い込まれるような感覚はまるで雪融け水のよう…。

つい見惚れてしまいます。　息を殺して見つめてしまう、という感じとは少し違うのですが、ただ知らないうちに引き込まれ、現実と想像の世界をくるくると行ったり来たりしてるような気持になる。　安直に染められた染色とはまったく以て段違いにレベルの異なるところに在る染色。　創られるべくして創られる。　ひとつひとつの四角や花が、色が、まるで染色家の心の内のようでもあり、ときに堆積した創意の名残のようでもあり、叡智の閃きのようでもある。　「創り手」は無論山本由季さんなのだが、ここが染色（染織）の、つまり工藝の不思議な（面白い？）ところ。　意図せずとも「血統」の力が出ているのです。　山本由季さんは系譜として画家の血が流れています。　まさにそうした血統が脈々と感じられるんですね。　要するに、山本由季さんの持つ感性と血統が交差するとかくも見事な作品が出来るのだな…。　と、感服した次第。

制作者である山本由季さんの作品を見ていると型染めも絞りも手描きも、なにを取り上げても非凡なる才能を持つ事が分かる。　時には絞りで、時には手描きで花の最上に美しい彩を注し、或いは型で連続性を表現し、描くことで創意を絹布に映す。　文字や言葉にすれば一見繋がりが無いかのように思えるそれらは一枚の絹布の上でも見事に美しい面を創り調和を見せている。　山本由季さんは身の回りの日常の一片を切り取ると同時に、植物や動物、昆虫の歓びに満ちた「生」のその一瞬を脳裏に捉え続けている。　対象物の生命となる美しくも儚い移ろいを決して色褪せることなく作品に写し込める才能は努力に加え、持って生まれた血統だと思います。　まやかさず、技巧に走らず、自己満足に終わらない、決して平凡に終わることのない才能、やはり才能としか他に例えようがない。　本品には山本由季さんの創作する歓びまでも感じられるのです。