木犀の
零れ花まだ
香を放ち
李茶
(拙句)
精緻な織に魅せられ…
【西陣織袋帯】経錦 ―太子間道―
織匠北むら 北村武資
「散りぬべき時知りてこそ世の中の花は花なれ人は人なれ」戦国の世に生きた細川ガラシャの辞世にある言葉です。 もちろん想像でしかないのですが、細川ガラシャは「美くしさ」の本質を悟っていたひとなのかもしれません。 折に触れ思います、「美くしさ」に対する価値や基準はひとから与えられるものでは決してないのです。 あくまでもそれを自分が美しいと感じられるか否か。 細川ガラシャは美意識と言う概念を、過去の何かからでもなく、外部からでもなく、自己の美意識から完成させたように思います。 そしてそれが、ガラシャの感性に鋭利とも言える「美意識」を確立させたのかもしれません。
美意識、これこそ現代多くの日本人が理解出来ていない意識のひとつであり、それが渾沌とした現代の日本の文化に象徴されているのではないかと思います。 本来美しさとは“ただ、そこに在るだけ”なのだと思います。 さらに言えば「美しさ」はこうした解説を必要としている訳でもないのだ思います。 美しさとはそこに在る「美意識」を感じられるかどうか… なにも感じられなければそのひとにとってそこに美しさは存在しないのです。 もちろん私たちは、もはや細川ガラシャその人自身を目の前にすることは叶いません。 でも、ガラシャの言葉からは、花と蝶をこよなく愛した細川ガラシャの美意識が感じられるようでもあり、リアル・タイムの息づかいが聞こえてくるかのようでもあります。 まるで時間の流れの澱に沈殿した細川ガラシャの意識のゆらめきが伝わってくるかのようでもあります。 その細川ガラシャが生きた古(いにしえ)の時代から、気の遠くなるほど長い時間が積み重ねられ、いまここにある一点の帯に細川ガラシャを重ね合わせる… やはり歴史は、そして時は、一本の帯のように繋がっているのかもしれません。
ではさて、この太子間道なんですが、唯単なる礼装の袋帯と捉えるにはあまりにもある種の趣を感じざるを得ません。 西陣織を指し示す際に「礼装的な」と言う表現が使われるのかもしれません。 しかし、こちら、実際に帯として、着物に適わせた際には「礼装的な」と言うだけの第一印象は一蹴されてしまいます。 工藝美術としての質感、つまり美術織物としての質感が極めて高く「礼装的な」と言う単純な表現だけでは尽くせない趣が保たれているのです。この趣なるものは何なのか。
やはりこの文様と色に尽きるのではないでしょうか。 利休白茶/ りきゅうしらちゃ に団十郎茶/ だんじゅうろうちゃ を滲ませたようなお色目で間道が織り出されています。 ご覧いただけますように可愛いという印象ではありません。 むしろある種の迫力を感じます。 法隆寺献上宝物に見る太子間道とは印象を異にします。むしろそれは単純に太子間道を模すのではなく、法隆寺宝物の美意識へのオマージュとしての制作なのかもしれません。
私の勝手な思い込みかもしれませんが、かつて北村武資氏は太子間道に向かいとても手間の掛かる仕事を積み重ね、それらを超えようとしたのかもしれません。 眺めていると文様に使われたひとつ一つの色が、直接的に目に映るのではなく、地色や周りの他の色と相乗して本来そのものが保つ「色」以上の「色」、もっと言えば「文様」以上の「文様」となっているのです。 太子間道は帯の意匠としてはとりわけ珍しいものではありません。しかし、その構図に籠められた色の創造と文様美がこの帯の美しさを際立たせているのだと思います。
帯地のすべてを模様で埋め尽くす意匠の帯によく見かける、”ただ々豪華に見えるべく”、的に織られたものではありません。 色柄が散りばめられた帯に有りがちな煩さを感じることもありません。 つまり… 見る者の美意識を濁らせてしまうかのような西陣織ではないのです。 華美過剰な煩さを一歩も二歩も手前のところで留め置いている、 決してやり過ぎていないのです。 抑制が効いていると言い換えても良いでしょう。 目に突き刺さる色、鬱陶しさを想わせる乱雑さを一切排除している、 つまり、すべてが完成されているのです。 衒いの一切ないこうした帯はどれほどの時間を掛けて眺めていても決して飽きることの無い普遍的な美しさ、帯本来の美しさを保っています。 実に見事な西陣織だと思います。
《北村武資》故人 1968年/日本工芸会正会員
1990年/京都府指定無形文化財保持者(羅・紋織)に認定
1995年/羅において重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定
2000年/経錦において重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定
2022年/死去
| 商品番号 |
TNM-OOE-02061 |
| 商品名 |
織匠北むら 北村武資、経錦袋帯、太子間道 |
| 品質 |
絹100%※金銀糸・箔を除く |
| 価格 |
¥608,000 (表地/税込) ¥619,500 (芯仕立て上げ税込) ※一級和裁士による手縫い。 ※お仕立てに要する日数はご注文確定後 約2週間~20日戴いております。 |
| 巾/ 長さ |
八寸一分~二分程(約31cm)/ 一丈二尺弱(約4m45~cm程)・※お仕立て上がりの際のサイズ※多少の誤差はご容赦下さいませ。 |
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