【いしげ結城紬織物】
雨垂れ絣
縮み織
甘いマスタード


私は商品を解説する際、しばしば“無地感覚の紬織物～”との表現する事があります。　無地感覚、あまりにも広義で曖昧な言葉なのかもしれません。　こちらに掲載いたしました結城紬縮み織は雨垂れ絣、言うなればランダムなピンストライプです。　熱心な結城紬愛好家からはなんだ地機じゃないのね…なんて声が聞こえてきそうです。　おっしゃるように本場結城紬の地機ではありません。　とは言えこちら、よくある石下結城ではありません。　画像でもご覧いただけますようにわざわざ不均一な糸を意図的に織り込むことによって降り始めの雨の様な雨垂れ絣としているのです。　その美しい雨垂れ文様、ご覧頂けてますでしょうか。


染められた糸のお色目はスイートマスタード、言わば甘い芥子色です。　なんとも絶妙な色目です。　マスタードと言う印象的な色を僅かに霞で抑えたかのような素敵な色目です。　もう少し説明を加えますと、その色の下地を作っている雨垂れなんですが、ランダムに生成りの糸を配列することにより、織り上げた際に雨垂れ絣となるように仕掛けられているのです。　

さてさて。　石下結城紬と言えど、所詮を枕言葉に上から目線で語ることは出来ません。「※そもそも、”石下結城でしょ、”なんて石下結城を一括りにして上から目線で語ること、それ自体真面目に制作されている石下結城の生産者に失礼甚だしいものなのですが」　とかく本場結城と比較され、訳知り顔で言われる石下結城ではありますが、石下結城とひとくちに言えども、その品質は同じではありません。（※本場結城と言えどもそれは同様です。）誤解を恐れずに申し上げれば、こちらにご紹介の石下結城紬、もちろん、本場結城紬と同等の品質とまでは言いませんが、とても上質な一点です。　


石下結城が地機で織り上げた本場結城と異なるものに糸に含まれる空気感の有無があります。　無論それを否定出来るものではありませんし、求めているものがそこであるならば、本場結城を誂えるほかありません。　でも、こちらの織物の魅力はそうした点では決してなく、この１点だけが保つ、この織り味、二度と同じ色を出すことの叶わないスイートマスタード、そしてその下地とされた雨垂れ絣が保つ、色と織り感の魅力に尽きるのだと思います。

どれほど永い時間を掛けて見ていても決して見飽きることのない、むしろ、うっかり眺めていると知らず々の内にその色と織り感に惹きこまれてしまっているのです。　単なる無地感覚の織物の様でいてその実単純な無地ではありません。　やはりあくまでも雨垂れ絣、織感に深みを湛えた無地感覚の石下結城紬なのです、しかも殊の外美しい…。　加えて申し上げれば、その質感にもうっとりさせられるのです