【型絵染九寸名古屋帯】
―花蝶―
紬地
制作/岡田その子



岡田その子さんの作品を見る度にいつも繰り返し思うことがあります。　それはそのやわらかな想像力を創造に変えるべく絵筆を巧みに操る手先の感性の豊かさです。　岡田その子さんの作品の多くはいわゆる型絵染めです。　つまり下絵に添った型紙を何枚も作るところから始まる訳ですが、その型紙の制作もまた岡田その子さんならではなのです。　通常型紙の制作は専用の錐などの道具を用いて柄となる部分が刳り貫いたり、切り取ったりする訳ですが、岡田その子さんは専用の道具以外に自身の指で和紙を裂いて型紙を作ります。 それゆえでしょう、作られるその型紙は得も言われぬ特有のやわらさを保ち、型絵染の輪郭に固有の印象を吹き込むのです。


この帯をご覧頂いて「どこか惹かれている」と想われた方は、絶妙なバランスを保った意匠/designに惹かれているのだと思います。　退屈な決まり事を好まず、この帯を所有する悦びを想い、どの着物に適わせる…、と言った楽しみを想われるのではないでしょうか。　　もちろんこうした帯はいわゆる「礼装」用ではありません。　しかし、反対に礼装では決して得られない愉しみが在り、その愉しみを何よりも求めているのではないでしょうか。 　


ではでは…、何に締めるのか…、　一言でまとめてしまうならば、お使いになる方の美しさの意識による、と思います。　それで良いのだと思います。　大島紬や結城紬と言った上質な無地感覚のものに適うのはもちろんなのですが　同様に無地感覚の小紋や色無地、細かな柄の江戸小紋などにも素敵な表情を見せてくれます。　街着的なカジュアルとしてお使い頂けると思います。


以前、お客さまがお話の中でこんなことを言われました。　こうした「碧みを帯びたブルー」は大人の女性としての「知」や「品」を想わせるかのよう…、大人の女性にこその色、と。　淡い碧ブルー、あえて申し上げれば秘色色 にほんの数滴青竹を溶け込ませたかのような色…、　そこに浮かぶ存在感の在る花蝶、こうした品のある可愛さをいくつなっても感じ取れるしなやかな感性を保っていたい…と。　そんなお話だったかと思いますが、「きもの」を装うと言うこと、それが女性にとって魅力的である理由のひとつをあらためて思いました。

「花蝶」、、。稚拙を一切感じない絵として完成されています。　一見何の制約もなく自由に描かれているようでその実、綿密に彩色が図られているようです。　そのことについて直接お訊ねしたことはありませんが、私の見る限り、意匠/design、構図、彩色、すべてにおいて完璧なのです。　長い時間を掛けて眺めていても手を抜いたり、創意が揺らいだ痕跡は見つけられません。　とくにこうした作品は描かれるものの大きさ、バランス、色彩、量、すべてが相俟って初めて完成を見るのです。　要するに僅かなことでそのバランスは破綻をきたし、単なるテーマ/題材に挑んだだけの染色となってしまうのです。　ときに辛口でうるさがられることの多い私ですが、非をうつところが見当たらないのです。　あくまでも大人の女性の為のセンスが溢れた作品です。

※趣の感じられる紬織物、上質な綿織物、無地感覚の御召織物など等にお使い頂けるかと思います。
※お使いのモニターによりましては単なる水色地に映っているかもしれませんが、そうではなく、水色に緑を一滴垂らしたかのような何とも言えぬ色…、極めて味わい深いお色目なのです。