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叙事百選集/江戸小紋2012年3/11(日)

叙事/その本来の意は事実をありのままに述べ記すこと。また、述べ記したものです。
つまり、主観や論評を避けて事実のみをそのままに述べることを主とする文となります…筈です。
でも、所詮私の書き物です。曇り眼鏡と浅薄な人間性による、偏見と曲解が顔を覗かせます。(笑)
弛緩した私感が時折織り交ざることも少なくありません。ご理解の上お読みくださればと思います。


人間国宝「伊勢型紙道具彫り」江戸小紋中村勇次郎

江戸小紋---古代菊

精緻を極めて彫り上げられた「伊勢型紙」 

それ自体が工藝品としての趣を保つほどの美しさ…

紋様美としてこれほど完成されたものは他にないのかもしれません。 …/

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文献によれば江戸小紋の起りは、室町時代と云われています。武家の武具である鎧や家紋などに遣われていた文様が、着物にも染められるようになったのは室町時代も後期のようです。
江戸小紋の文様は、いわゆる江戸小紋三役と云われる「鮫」「行儀」「角通し」、武士の裃に使われた「定め柄」、たとえば「菊菱」を遣った加賀藩前田、「大小あられ」の薩摩藩島津など諸国大名が定めたものと、町人たちが創意を凝らした「いわれ柄」の二つに分けることができます。 「いわれ柄」は町人たちの洒落や頓智を職人たちが表現したものが多く、思わずくすっと笑みが漏れてしまうようなもの、なるほど、と唸らされてしまうものもあります。まさに江戸に生きた人たちの零れるエスプリに往時が偲ばれるというものです。

研鑽を積み重ねた職人の手技、堆積した英知から生み出される江戸小紋。
江戸小紋は美濃和紙に彫られた伊勢型紙を使い、古来より伝え継がれた職人技で染め上げられた「染織工芸品」です。つまりは型紙を使い染める染色です。
それは製図と呼ぶのに相応しい(下絵と呼ぶには些かその印象を異にするので)文様を忠実に型紙を彫るということから始まります。専用の「錐※きり」などの道具を使い「彫り上げて」いくその作業は世界で最も生真面目と云われる日本の職人の気質に適う仕事であるかもしれません。


それはまるで精密機械が繰り返しているかと見紛う程細密な仕事、完璧が求められる作業を気の遠くなるほどの長い時を掛け、積み重ねてゆきます。集中を保ちひとの「手」によって丁寧が尽くされ、精緻を極め彫り上げられた「型紙」は「型紙」それ自体が工藝品としての趣を保つほどのものです。また、その細密に彫られた型紙を1mm以下の誤差なく長板の上で繰り返し繰り返し送り染め上げていくその仕事もまた、江戸小紋の職方の見事な手技でもあるのです。 


非効率な仕事?、何となく腑に落ちない思いを抱かれた方も少なからずおられるのではないかと思います。だったら精密は精密機械に求めればよいのではないか?。
そうです。今日では型紙に彫られた文様をPCに撮りこみ写真版として印刷(プリント)する江戸小紋調子(風)の商品もたくさんあります。むしろ市販の江戸小紋と呼ばれるものは調子や風が圧倒的に多いかと思います。
ちょっと逆説めいたお話になりますが、当時の日本の封建的とも思われる鎖国によって生じた近代工業化の遅れが職人の手業を粋を押し上げた一因とも云われるように(そればかりではないことはもちろんですが)奇しくも今日の印刷技術の発展が江戸小紋の衰退を進めてしまったとも言えるのは人智を超える不可思議な様であるのかもしれませんね。

お話を戻しますと、本物とコピーの違いは絵筆で描かれた一枚の絵画とそれを写したポスターの違いと言えば解かり易いでしょうか。一枚の絵の細部の瑕疵までも写し撮ったポスターも目に映る具象事実は同じです。書家の書き上げた墨書の胡麻のような跳ねも墨の涸れも写し撮ったポスターには同じ模様が写ります。でも筆に宿された気迫や魂までは写らないのです。その迫力の違いは臨場感、つまり作品として生きているか否かに尽きるのです。
ひとつの作品に籠められた幾つもの上質と誇り、まさにそれこそが江戸小紋なのです。


江戸小紋の凛とした美しさ、単色で染め上げた潔さは職人たちの積み重ねてきた歴史の尊きに尽きるのだと思います。そして醸し出す美しさは確実に日本的で且つ文句なく綺麗と断言出来ます。
言わば江戸小紋はまさに日本の伝統的な染色そのものであるのかもしれません。それゆえに悠久のときを経て今も尚現代に生きる私たちの心の琴線に触れ続け、日本女性の心を魅了するのかもしれません。ひとつの紋様美としてここまで完成された紋様を私はこれまでに見たことはないですね。


画像の江戸小紋はいわゆる「小紋三役」と称される江戸小紋ではありません。つまり小紋三役から想うような「礼装感」を感じることは無いのかも知れません。とは言え、これほどの小紋となりますと単なる普段遣いの小紋の印象に留まるものではありません。小紋三役ではないからと言ってひと括りに普段遣いとしてしまうべきではないように思います。格の高い西陣織の帯を御遣いになることで礼装感を保った装いとすることが出来ますし、趣向的な帯を御遣いになったとしても品位を想わせる余所行き着として御遣い戴くことも出来るのです。 むしろ小紋三役と言われる鮫・行儀・角通し特有の「きりっ」とした江戸小紋とは異なり 洒脱な雰囲気や微かな甘さを兼ね備えた印象を保っていてとても素敵ではないでしょうか。 


こちらの作品は人間国宝/中村勇次郎彫刻の型紙にて染め上げたものとなります。こちらの伊勢型は現存する型紙が旧いものとなり、型紙の破損などを考慮して新規に誂え染めの制作ご注文は承っておりません。希少な文化財保守の見地よりご理解を賜りますようお願い申し上げます。


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